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タクシン派政権の崩壊で反タクシン派(黄シャツ)のデモがひとまず落ち着きました。立場が逆転したタクシン派(赤シャツ)が黄シャツと同じような愚行にでる可能性は残っていますが、国民の関心事は何よりも世界を席捲している経済不況をどのように乗りきるかです。赤シャツ内部でさえ活動資金の枯渇で仲間割れが表面化しています。 「国王のもとの民主主義」の忠実な実践者を自負する新政権や守旧勢力は、この期にこそ「王国」タイの土台を固めようと「不敬罪」の適用が目立っています。為政者が「安定」ということを優先するときの選択肢なのでしょう。しかし、強権や押し付けは必ず反発を生むものです。それよりも景気回復に手腕を発揮してほしいものです。 よくアメリカがクシャミをすれば日本が風邪をひくと喩えられますが、いまは世界中が感冒にかかっています。タイでも日系、米系企業の工場労働者の大量解雇が始まり、失業者が増えています。 1997年のアジア経済危機は、韓国、インドネシア、タイが大打撃を受けました。アメリカの金融操作によるアジア通貨価値の急激な変動が原因でした。今度は金融センターのアメリカ自体が危機に陥っているのですから、ちょっと先がみえません。実体経済から乖離した金融経済の破綻が起こした不況です。オバマ新政権に過剰期待してもすぐに景気が回復するものではないでしょう。なおかつアメリカはまず自国経済の建て直しに奔走するでしょうから、アジアはより皺寄せを受ける可能性があります。アジアのリーダーや財界人たちは欧米中心の経済専門家で編成される世界通貨基金IMFの景気回復策に懐疑的です。 日本では「派遣切り」が問題になっていますが、バンコク郊外の工業団地では大量解雇を受けた労働者が生活保障を求めてデモを行っています。赤シャツVS黄シャツの抗争はどちらかといえば富裕層の権益争奪戦であり非難合戦です。権力抗争に明け暮れて不景気対策や失業者対策をおろそかにすれば、貧困者たちが格差社会に不満を募らせて、より大きな混乱が起こるのではないかと心配です。 ただ不況に対するメンタリティーは、タイのお国柄はかなり鷹揚です。よく「北方の勤勉と南方の怠慢」と表現されます。寒い地方では働いて冬のための食料や燃料の蓄積をしないと凍え、飢えてしまう。熱い地方では食料の蓄積をしても腐ってしまい、ほどほどに働けば凍えず、飢えることがない。植民地政策のように北方から南方への収奪が行われた所以です。いまでは経済の仕組みが大きく変わってしまったために南方でも勤勉でなければ飢えますが、南方の怠惰いや楽観主義DNAは受け継がれています。 小屋がけに卓袱台ひとつの貧しい家庭を訪問しても“貧しさに負けた〜、いいえ、世間に負けた〜”と「昭和枯れすすき」のような暗い雰囲気は漂わず、陽気なルークトン(タイ演歌)や笑顔に溢れていて、逆にこちらが救われることがしばしばです。あくせく働いて富や地位を得ることに何の価値があるのだろうと考えさせられることもあります。自分のなかで揺れ動く価値観に翻弄されながらタイに永く住んでいると「タイ人化した日本人」と後ろ指をさされるようになります。私など日本の規準と照らし合わせると「怠惰」「刹那的」「楽観主義」「いい加減」な人間の典型です。そして、そう揶揄されることに反感を持たずに「マイペンライ(気にしない)」ですから、もはや日本社会では通用しないと思います。タイのことを見下していると取らないでください。貧しくても飢えない自信が「タイ流」の根底にあり、働き続けないと生存できない社会と価値観が違うのです。 不況が深刻になると富や地位を得た者が貧窮者に直接に食べ物を施して取りあえずは飢えません。それは行政の仕事ですが、タイでは伝統的に金持ちの慈善あるいは偽善に頼ってきました。よって貧窮者は金持ちに頭が上がらず、金持ちはますます地位を高めて実力者となり、格差社会が解消されません。黄シャツや赤シャツのデモに動因される人たちは、どちらにつけばより施しを受けられるかということを計算の上で参加している貧困者が多く混じっています。個々の実力者が行っているタイの伝統をきちんと行政が機能化して公正な富の分配に成功すれば政権の安定につながると思います。しかし、机上の理想を具体化するのは並大抵ではありません。 97年の経済危機のとき、タクシン氏らが音頭をとって「タイ・チュアイ・タイ(タイ人がタイを救う)」キャンペーンを行い、全国から大量の金銀財宝を集めました。どのように使われたのか公正に使われたのか大いに疑問が残るのですが、連日のように山と積まれた財宝をテレビが放映しましたから相当の額です。タイの底力をみる思いでした。タイでは財産相続税や土地所有税など無いに等しく、7%の直接消費税を課す税収が主ですから本当にお金持ちにやさしい。国民年金制度などの社会保障もありません。タイ富裕層は不況時にも耐えられる余裕を持ち続けてきたのです。そして貧者は政府ではなく富裕層にぶら下がることで生き延びてきました。 空港占拠による観光業への大打撃に加えて、「未曾有」の世界不況の影響がタイにも目に見えて現れています。今年は100万人規模の失業者がでることが予想されています。エアコンの効いたデパート内でテレビの前に座り込んでいる人の数が増えています。王宮前広場周辺では、茣蓙の上に故買品を並べる人の姿が目立ってきました。在来の故買商だけではなく、家から売れるものを持ち出して路上に並べている一般人がいます。 私自身も日本にいれば「派遣村」に入りたくなるくらいに不況の波を受けています。古いカメラ機材を手放せばいくらになるかと考えたりします。ただ、晩酌つきの食事を楽しみながら不況だ、不況だと騒いでいるくらいですから、飢えと凍えに直面している人たちとは雲泥の差です。 ともかくもタイ流の不況克服をじっくりと見せていただきましょう。
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