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 寒波と半野良の犬たち

 昨年末から今年の頭にかけて、タイは例年にない異常な寒さに見舞われました。多くのタイ人がこんな寒さは経験したことがないといい、北部や東北部では大勢の死者が出る一方で(死亡例の多くは酒を飲んでそのまま寝込んでしまったためです)、めったに見ることができない霜景色が観光客の目を楽しませました。
 寒さに震えたのは人間ばかりではありません。犬好きの人が多いタイでは、少しでも寒くなるとそのへんの半野良の犬(一見野良犬のようだが一応エサくれる人がいる。首輪をつけていることもある)が一斉に人間のお下がり服を着せられるのですが、この寒期は特に服を着ていた犬が多かったようです。毎年そんなコスプレ犬を見るたび、ほほえましい気持ちになると同時に、実はありがた迷惑なのではないかとも思ったりしていたのですが、こんどの寒期ばかりはさすがに人間様に感謝していたことでしょう。
 さて、バンコクの半野良はともかく、寒さの厳しい北の地に住む野良犬たちは、寒さ以外のもうひとつの理由によって震え上がることになりました。犬狩りです。タイは東北部のサコンナコン県を中心に犬を食べる習慣があります。さらに、犬を食べると体が温まると信じられており(特に黒犬が温まるそうです)、今年は寒さのために東北部全域で犬肉の需要が急増しました。もちろん犬肉の多くは業者が養豚ならぬ養犬によって供給しているらしいのですが、犬肉の値段が上がったために、各地で犬狩り、半野良の拉致が横行したのです。
 北部チェンマイ県のサントンクローク村では、わずか1カ月ほどの間に50頭もの犬が姿を消したそうです。この村に住む1頭の半野良、ジャオプイ(オス、5歳)も犬狩りに捕まりかけたのですが、間一髪のところで車の荷台から飛び降りて脱出、足にケガをしながら世話主の元へ帰ってきたとか。村の人たちは、残された数少ない半野良たちを守ろうと交代で夜のパトロールを始めたそうです。
 その後、この村で犬狩りをしていた一組の夫婦が警察に逮捕されました。妻がピックアップトラックを運転し、夫がめぼしい犬をみつけてナイロンひもで絞め殺して荷台に積み上げていたそうです。野良犬稼業も楽ではありません。


 


オラウータンも冬支度

間一髪で逃げたジャオブ


逮捕された犬狩り

 

ムーガタにご注意

格安焼き肉バイキング「ムーガタ(鉄板豚)」。タイ人庶民向けファミリーレストランとしてすっかり定着し、B級グルメ派の日本人の中にもちらほら好きな人をみかけますが、利用するときはそれなりの注意が必要です。今年1月、このムーガタで豚肉を食べた女性がブタ連鎖球菌に感染したとみられるケースが北部ナーン県で報告されました。悪寒や下痢の症状を訴えた後、一時は筆談を要するほどに聴力が落ち、回復までにかなりの時間がかかったそうです。ブタ連鎖球菌は加熱さえすれば容易に死滅します。親切な人が取り分けてくれた肉でも、焼きが甘いと思ったら遠慮なく焼き直すことが肝心です。ムーガタは以前、販売が禁止されている格安のフグ肉が出回って問題になったこともありました。いったいこれは何の肉だろうという状況に出くわしても、そこがムーガタなら妙なチャレンジ精神は起こさない方がいいでしょう。


ブタ連鎖球菌に感染

偽札に御注意

 経済不況が長引くと様々な犯罪が多発しますが、タイでは昨年末から偽札の氾濫が大きな問題となりました。素人がカラーコピー機で作った子供銀行券レベルのものから、犯罪組織が職人を使って作らせたかなり精度の高いものまで、主に1000バーツ札、500バーツ札を中心にかなりの量が出回ったと言われています。多くの人が札を使う際にちらりと透かしを確認するようになり、現金の取り扱いが多い商店では偽札判別機やチェックペン(偽札だと色が浮かび上がるそうです)を使い始め、銀行の職員が市場に出向いて偽札の判別方法を教える青空講習会まで開かれました。ATMで下ろした現金に偽札が入っていて知らずに使おうとしたら警察に突き出されたという話は決して他人事ではありません。我々も札を手渡す前に一応透かしを確認し、そのお金をどこで調達したのか記録しておく(ATMのスリップを保存しておく)などの対応策が必要です。
 偽札が大量に出回っていたのは主にタイ東北部です。昨年の12月26日にはバンコクのディンデン地区で大掛かりな偽札組織が摘発されましたが、これは東北部ナコンラチャシマ県警が、地元で逮捕した偽札製造グループの男の証言をもとにバンコクに乗り込んで手柄を立てたものでした。製造拠点はバンコクに構え、東北部から流通させていたわけです。地方の方が発覚しにくいからなのでしょうか。
 一方、バンコクの中心部ではこうした偽札騒ぎに便乗した「たかり」の横行が報告されています。警官のフリをした男が外国人観光客の所持品チェックを行い、財布の中の札を抜き出して「これは偽札だ」と言って没収してしまうそうです。少なくともこの偽札騒ぎが収まるまでの間、自分の財布の中に入っている現金の状態はきっちり把握しておいた方がいいかもしれません。


 さて、偽札はかなり古典的な犯罪のひとつですが、タイでは時代の先端を行くコンピュータ犯罪にも注意しなくてはなりません。1月16日、バンコク大学に通うウクライナ人の男子学生(19)がネットバンキングの不正送金容疑で逮捕されました。某商業銀行のネットバンキングを利用していたタイ人男性の口座にアクセスしてIDとパスワードを盗みだし、自分の口座に35万バーツを不正送金したというものです。この学生はネットで知り合ったロシア人の女にタイ国内で口座を作るよう依頼されただけだと容疑を否認していますが、いずれにしろ、ネットバンキングを利用している人は自分の口座の残高が知らない間に減っていないかどうか、マメにチェックした方がよいでしょう。


上が偽札

偽札製造団逮捕

 


不正送金で逮捕されたウクライナ人学生。
若干19歳

 

タクシン商売

 空港封鎖デモという荒業でタクシン派政権が転覆、民主党を軸とする連立政権が発足しましたが、こんどは赤をイメージカラーとするタクシン派が各地で大規模集会やデモを繰り広げています。北部、東北部の人たちは今もその多くがタクシン元首相の支持者であり、アピシット首相の掲げる国民融和には長い時間がかかりそうです。
 タクシン支持派団体の拠点ともなっているウドンタニ市内に、タクシン元首相の根強い人気を象徴する一軒の店があり、今も大繁盛を続けています。ソムタム屋台の「ドクター・タクシン・チナワット・ソムタム」です。店主のウィチャイさん(63)と妻のノイさん(52)は過去20年にわたってソムタム屋台を続けてきましたが、昔は売り上げのほとんどが借金の返済に充てられる苦しい毎日を送っていたといいます。転期が訪れたのは2006年。タクシン政権が設立した低所得者向け基金からお金を借りてヤミ金融への返済を終えたことで生活が一気に楽になりました。さらに感謝の意を込めて店の名前を「ドクター・タクシン・チナワット・ソムタム」に変更したところ、客が一気に倍増し、息子と娘を無事大学にやることができたそうです。
 タクシン政権のばらまき政策には批判も集中しましたが、こうして実際に生活を向上させた人たちがいるのもまた事実で、彼らがその恩を忘れることはないでしょう。アピシット新政権存続のカギは、タクシン政権の残した「正の遺産」をうまく引き継いでいけるかどうかにかかっているようです。


「ドクター・タクシン・チナワット・ソムタム」

栄養ドリンク
「戦えタクシン!」

 

クローンガウル
 絶滅が危惧されているインドヤギュウもしくはガウル。タイではグラティンと呼ばれるアジア最大のこの野牛のクローンが、スラナリ技術大学のランソン教授の研究チームによって誕生していたことが昨年12月、明らかになりました。生存時間は12時間。普通の牛の仮親を使ったため早産してしまい、早死にしたとみられています。
 クローン動物については最近、欧米や日本でも主に食肉の安全性の観点から盛んに議論が行われています。絶滅が危惧される希少な動物を繁殖させるためのクローン技術研究は、少なくとも食肉動物のクローン研究より心情的に賛同できる人が多いと思われますが、彼らを絶滅の危機に追いやったのもまた人間であり、そこに人間の都合とエゴが含まれていることに変わりはありません。食肉が目的であれ希少種保護が目的であれ、クローン技術が暴走してしまわないよう倫理についての議論をしっかり並行して進めていくことが重要です。タイはここ数年、東北部で大型恐竜の化石が相次いで発見され、世界的にも注目を浴びています。カラシン県にはシリントン王女の名を冠した本格的な恐竜博物館もオープンしました。いずれマンモスのクローンが誕生し、恐竜の再生が夢物語でなくなる日が来たとき、タイに本物のジュラシックパークを作ろうという話が浮上するのは間違いないでしょうから。

 


生後12時間

 占いは災いの元
タイ人は大の占い好きです。お寺の前にはよく手相見やカード占い師がいますが、最近は駅やショッピングセンターなど人通りの多いところにもテーブルとイスを置いただけの占い所を見かけます。中には占い師が普通の女の子で、占いというより簡易雑談所と言った方がぴったり来るようなものもありますが、不況のあおりで悩みを抱えている人が多いのでしょうか、案外繁盛しているようです。

占いといえば昨年末、テレビで活躍中の人気占星術師、スクリットさんの「リディアさん妊娠発言」が大きな話題となりました。リディアさんは以前、タクシン元首相の愛人ではないかと囁かれたことのある人気歌手で、そのリディアさんが「妊娠している」とスクリットさんが発言したため、ひょっとしてタクシン元首相の子供ではないかとゴシップ紙が飛びついたわけです。もちろんスクリットさんはただの占星術師ですからこの発言には何の根拠もなく、ただのお騒がせネタに過ぎなかったのですが、リディアさんの母親、サンサニーさんがこれに激怒し、スクリットさんが出演していた某芸能イベント会場に押しかけて大勢の目の前で謝罪を要求しました。スクリットさんは一応謝ったものの、サンサニーさんの要求した土下座を拒んだために、後日慰謝料を請求される訴訟を起こされたということです。

タイでは中国系のビジネスマンはほぼ例外なく風水を重視しますし、何年もつきあってきたタイ人の女の子からいきなり真剣な顔で別れを切り出され、よくよく理由を聞いてみたところ、占い師にその男はやめた方がいいと言われただけだったというような話も聞きます。たかが占い、されど占い。タイ人とつきあい上手になるためには、この表裏一体の感覚を身につけなくてはなりません。


リディアさんの母親に謝るスクリットさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Vol.53 ASIA NEWS / スパイシーたいらんどタイで想う日々 東北の魅力山田長政/南の国からUSA ベトナム正月オバマ BANGKOK index