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発行責任 築山政雄 |
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「セタキット・ポーピアン」 2007年8月
セタキット・ポーピアンとは、「足るを知る経済」「ほどほどで満足する経済」というふうな意味です。プミポン国王が、揶揄を込めてタクシン政権時代に提言され続けた言葉です。
「充足経済。 丁度よいくらい食べられて、必要最小限のものが揃っている生活がよい。 過剰な生活を望んで借金をし、自分や家族の将来に禍根を残さないように」
国民の射幸心を煽りに煽ったタクシン氏へのアンチテーゼが、セタキット・ポーピアンだと言えます。クーデター後に任命されたスラユット首相も所信表明でセタキット・ポーピアンに言及して経済政策の基本方針としています。スラユット首相は、がむしゃらに経済発展をさせて国民総生産(GDP)を上げてゆくのではなく、国民総幸福(GNH)を発展指標にすると表明しました。国の豊かさを表すGNHは1980年代にブータン国王が提唱し、国民の満足度や幸福度の向上こそ発展であるという考えに基づいています。幸福度というのは主観的なものですが、「健康」、「就業」、「家庭」、「治安」、「生活環境」、「人権と自由」などが保障されているかどうかを指数で測ります。スラユット首相から国民総幸福のための具体的な政策の提示はありませんが、額面通りに幸福度を上昇していただきたいものです。
タクシン政権時代にテレビで「マイチンファン(爪楊枝)」と村人が唱和する銀行のCMが繰り返し流れました。村人たちが村起しのために、大きな丸太を囲んで喧々諤々の評定をします。丸太をどうすれば儲かるか、いろいろなアイディアを試しているうちに、村人たちに残ったのはマイチンファン一本だけとなってしまいます。そこで銀行のロゴが画面に現れ、そんなことなら当銀行に相談してくださいとメッセージが流れるのです。一代で巨万の富を築いた通信王タクシンのように、ひょっとしたら自分たちも大金を掴めるかもしれないと夢見る村人たちの心理を巧妙に描いたCMで、秀逸の出来でした。そしてCMのような出来事は、農村のあちこちで実際に起こっていました。しかし政府は一村一品運動(OTOP)を展開中で、知恵を出し合って爪楊枝一本しか残らないのはけしからん、と当局の逆鱗に触れて放送禁止になりました。いま「マイチンファン」のCMを流せば政府は放送禁止どころか奨励することでしょう。爪楊枝一本でも何も残らないよりはマシではないかと。
地方産業の活性化を謳ったOTOPが成功か失敗かというと両側面あります。一時的に地方での就業機会が増え地場産業の技術向上がありましたが、市場目途など無いまま特産品を作り続けるわけですから経済的にはすぐに破綻です。政府が海外などでキャンペーンをしても市場には限界があります。先日、タクシン氏のお膝元チェンマイに行きましたが、OTOPの看板が掛けられたショップはどこも閑古鳥が鳴いていました。OTOPは継続中のプロジェクトであり結論を急ぐのは早いと思いますが、バカ売れするような一品を持て囃すのでなく、村人がほどほどに食べていけるくらいの特産品を地道に奨励してゆく方向に、つまり「タクシノミックス」から「ポーピアン」へ収れんしつつあります。
ちょうど10年前のアジア通貨危機のとき、「ラオ・ペン・コン・タイ(私たちはタイ人)」というキャンペーンが官民あげて行われました。愛国意識を煽って、危機を乗り切ろうとしたのです。経済再生に使ってくれと寄付された金銀財宝が山積みにされ、連日テレビに映されました。まだ少数政党幹部だったタクシン氏はこのときに政党名を「タイ・ラック・タイ(タイ人はタイを愛す)=愛国党」に変えて、一気に人気を得ました。タイの人たちは、この辺のムード作りが本当に上手です。
いま「セタキット・ポーピアン」は、クーデターで落ち込んだ経済の言い訳に使われているフシもあります。国民投票で新憲法が承認され、その後に総選挙が行われるまでは政局がどう変転するかわからず、海外からの投資家たちも様子を伺っているところです。現政権下では急激に経済が好転する材料はありません。タクシン復活待望論を抑えて国民を納得させるには、国王のお言葉「セタキット・ポーピアン」が必要なのです。それは、国民の崇敬を一身に集める国王のお言葉でないと効力がないと思います。例えば、日本で政府高官が「みなさん、ほどほどに暮らされているから良いんじゃないですか。たまにグルメを楽しんで、旅行に出かけることもできるし、電化製品もそれなりに揃っている。それで十分じゃないですか」などと公言したら総スカンです。
高度バブル経済の崩壊後、バブルの残像に振り回されている日本人が多く居ました。タイでも高度成長の残影に取り憑かれている人が多くいます。僕も、若かりし頃に現場を走り回って荒稼ぎをしたことの余韻に苦しんでいます。仕事そのものが減っている上にギャラは20年前から据え置き状態です。物価の上昇から考えると収入は激減です。日本とタイの為替格差ゆえに、かろうじて暮らしているようなものです。 「とりあえず食べているから良いじゃないか。貧しくとも幸せな家庭が一番」と口に出して言おうものなら、怖い目で家内に睨まれてソッポを向かれそうです。
改めて国王の偉大さに恐れ入っています。
(MK) |
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Vol.48の内容
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