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8月中旬、1996年に起きたジョンベネちゃん殺害事件の容疑者がタイで逮捕されました。顛末は、みなさん御存知の通り。アメリカ人教師ジョン・マーク・カーの虚言癖に官憲やメディアが振り回されて大騒ぎしただけのことでした。 私自身もカメラマンとして大騒ぎに参加しましたから偉そうなことは言えません。しかし何故あれほどの騒ぎになったのか、いまマス・メディアが抱えている問題を考えるヒントがあると思います。 ジョンベネちゃん事件は、ワイドショーが飛びつきやすい話題に溢れていました。 数々の美少女コンテストを総なめにしたジョンベネちゃんが殺害されたこと、ミステリー小説もどきの密室殺人、さも両親が殺したような思い込み報道が先行したこと、日本でも幼女誘拐致死事件が頻発していること、…。 話題性があれば取材が集中するというのは当然のことです。ニュースの真贋や意味合いにかかわらず、競合メディアに先を越されてはいけないという横並び意識だけで現場にカメラの放列ができてしまいます。そこで行われるのは、事の真実を見極めるための調査活動以上に、撮りこぼさないための努力です。 カメラ放列の一員として、カー容疑者が留置されているタイ入国管理局前でスタンバイしていると、タイのカメラマンが語りかけてきます。 「アメリカン・ドメスティック(地方ニュース)に何でこんなにカメラがいるんだ?」 「そういう君は何でここにきたんだ」 「外国メディアが集まっているから、行って来いという上司の命令だ」 某国営放送のカメラマンが語りかけてきます。 「ライブラリーを調べると、うちは事件発生からいままで3回しかジョンベネ事件を放送していない。しかし、民放さんが煽るから、視聴者からどうしてニュースで取り上げないと問い合わせがある。国民の知る権利を無視できないんだよ」 国民の知る権利に応えるのなら、もっと肝心なところで頑張ってほしいものです。 2005年5月にフィリピン・ミンダナオ島で元日本兵生存情報が流れました。 ミンダナオのジェネラル・サントス市には100人を越える邦人メディアが集まりました。某メディアの勇み足だったのですが、元日本兵の具体的な名前まで活字に躍りましたから、首を傾げつつ本当だったら驚異的なことと現場に直行した人が多かったと思います。棺桶に片足を突っ込んだような予備役カメラマンの私にまで声がかかり、日本兵の亡霊とお付き合いしました。元日本兵がいるとされる現場はモロ解放戦線の活動地域です。危険地域に入るなという各メディア本社の厳命のもと派遣されている記者やカメラマンは、ジェネラル・サントス市内に缶詰状態で、日本大使館調査員の動向と情報源探しに取材が集中しました。小さな地方都市の僅かなホテルに100人を越える日本メディアがあふれたわけですから、地元紙に「日本兵の亡霊に振り回される日本メディア」と皮肉られるほどのパニックぶりです。 フィリピンに行かれた方なら経験があるかと思いますが、いろんな処で山下財宝の話がまことしやかに語られ続けています。連邦軍にマニラで絞首刑にかけられた山下奉文陸軍大将が密かに財宝を隠していたという噂は、残留日本兵の話などと絡み合って尾ひれがつき、不正蓄財を糾弾されたマルコス元大統領が山下財宝を探し当てたと言い逃れをするなど、真贋はともかくも話題に事欠かない物語です。まあ、マルコスの弁明は、日本の戦後賠償ODA資金を探し当てたということなら当たらずも遠からずです。私も何度か変な日本文字が散りばめられた財宝の在りかを示す地図を見せられました。トレージャー・ハンター(宝探し)を生業とする人たちがいて、実際には軍票や錆びた日本刀などの七つ道具を日本人に見せて食事や金をせびることで生活しています。 日本政府はブラジル日系移民の子孫にビザ優遇政策をとっています。フィリピン日系人にもビザ優遇処置をとると発表・施行してから、虚実推し混ぜて自分は日本人あるいは日系人であると名乗り出る人が急増しています。日本への出稼ぎビザは、いまだにプラチナ・チケットであるという幻想が根強く、日系人の名前で偽造パスポートを作りジャパユキさんを送りだすブローカーも出現しています。 そんな危うい情報源がいっぱいのところで事実確認もせずに先行して記事を流したメディアと、あれだけ確信的に書いているから根拠があるはずであり遅れてはならぬと追随する競合メディア、泰山鳴動して何とやらという現象が起きてしまいました。 松本サリン事件のことを思い出します。 犯人か?から犯人!という断定に変わっていく冤罪の過程を、多くのメディア人が自責を込めて検証しています。その教訓が活かされているかというと、残念ながら否定せざるを得ません。 こうしたメディアの風潮は日本だけでなく、世界に共通しています。例えば、あれだけ断定的に報道されていたイラクの大量破壊兵器も、まだ見つからないままです。アメリカの情報操作にマス・メディアが乗っかり、イラク侵略を正当化する手助けをしてしまいました。現場で取材している人たちは、変だなと思いつつも泰山鳴動のなかで大量破壊兵器がある前提で動きます。そして、対テロ戦争という似非大儀の下で、関係のない一般市民が殺戮されています。 ジョン・マーク・カーの虚言とアメリカの作為的な情報リーク、比較するべくもないことです。しかし、なんの脈絡もないふたつの現場に群がるカメラマンの顔が同じであるということに気付きます。私は残念ながらイラクには行けませんでしたが、同じ顔の一人です。自分自身、得体の知れない危うさに慄きながら、現場を徘徊しています。 マスコミに仕事を貰い、その現場に参加しておきながら、つい斜めに見てしまう悪癖をお許しください。
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