by MK

 

「ボゴールのイヌワシ」 2004年11月

 常夏のタイですが、12月からは温潤な南西季節風から冷乾な北西季節風に変わり、雨が降らず気温の低い、もっとも過ごしやすい季節を迎えます。

 この季節風は、向かい風のバンコクから成田へのフライト時間が7時間半なのに、追い風の成田からバンコクへのフライトは5時間半で済むという強烈なものです。

 しかし、日本では台風の襲来が例年になく多かったように、地球規模での気候変動が起こっていて、過去の気象データをあまり当てにできなくなってきました。実際に、ことし1月にバンコクでは降ることのない雨が4日間も連続して降りました。また、雨季に十分な雨が降らなかった所為で、タイやカンボジアでは米の不作やイナゴの大発生が心配されています。

 もっとも、人類の歴史よりもはるかに長い地球の歴史から考えると、これくらいの気候変動は微々たるものです。その微々たる変化に大被害を受け、ことによると滅亡の危機に直面するのですから、いかに人類が脆弱な存在であるかを知らされ、愕然とします。

 ジャワ島ボゴール山麓に舞うイヌワシ。

 このイヌワシは岐阜県犬山市から毎年飛んでくるヤツだよ、と研究者がビノキュラーを片手に説明してくれたのを思い出しています。この季節、日本からインドネシアへイヌワシが飛来します。この「渡り」をトレースしている研究グループがいるのです。

 日本とインドネシアを往来するイヌワシ。シベリアから日本やインドなどへ渡るツル。北洋から南洋へ回遊するクジラ。ノ。「渡り」や「回遊」のメカニズムは、まだ不明の部分もあるものの、かなり解明されてきたようです。それは簡単にいうと氷河期をくり返す地球規模の気候変動に対して、「種」を維持するために発生したメカニズムとして捉えられています。

 「渡り」の研究は、愛鳥家や自然愛好家の単なる趣味ではありません。地球規模の気候変動に対して、鳥や動物の生態はどう変化してゆくのか、そして生態系の一部を担う人類にどんな影響を及ぼし及ぼされるのかという大切な研究です。

インドネシアのイヌワシ研究者は、気候変動が顕著になってきて、研究の大切さがようやく人々に判ってもらえるようになったと話していました。

 いまのペースで地球が温暖化を続けて海面が上昇するとどうなるか、というシュミレーションをしてみます。東京は、巨大な堰堤を築きオランダの風車のような揚水施設をつくり続けたとしても、ひとびとは塩害や洪水に悩まされて暮らさねばなりません。南インドやバングラデシュからは、億の単位の環境難民が発生します。当地バンコクも、もちろん水没です。ことし開通した地下鉄は、海中電車です。ノ。

 インド洋上1400のサンゴの島からなる平均標高1・5メートルのモルディブでは、人口過密の首都マレ島の移転という建前で、きたる時代を想定して、国民20万人すべてが暮らせる人工島を建設しています。建設中の人工島を取材し青写真を見ましたが、けっして十分な高さとは言えません。中途半端な高さの人工島よりは、いっそのことノアの箱舟ならぬ巨大な家船を洋上に浮かべて船上国家を建設すれば海面上昇に対応できるのにと、人の苦悩も知らずにSFのようなことを考えてしまいました。

 同じように水没の危機に直面している太平洋上の島国ツバルでは、大統領が中心となってオーストラリアへの難民申請をしました。難民と移民とでは、国連や各国政府の負担度が異なるようで、豪政府は難民申請をうけつけず、移民としてツバル国民を扱っています。

 また、太平洋のナウルは国籍の大安売りをしています。

 ネットで申し込み、お金を振り込むとナウル国民のパスポートを簡単に発行してくれるようです。香港でナウル国籍のテロリスト逮捕という記事を見たとき、なんでナウルなのと不思議に思って調べるとナウルのパスポート所有のサウジアラビア人がテロリストの容疑をかけられたということです。

 ペーパー・カンパニーという言葉がありますが、ペーパー・カントリーという捉え方もあり得るのだなと思いました。ちなみに、テレビ関係者のホーム・ページでドットTVのドメイン名を取得している人がいますが、このTVはツバル国のTVです。税金の優遇処置ゆえにマネー・ロンダリングに利用されているカリブ海の島国バミューダの例もあります。ナウルもツバルも、ペーパー・カントリー的存在として生き残りの活路を見出そうとしています。

 温暖化をめぐる京都議定書の各国批准の推移をみていると、環境問題ではなく国際政治・国際経済問題となって袋小路に入っているようです。温暖化が進んでいるという厳然とした事実そっちのけで、誰が得をして誰が損をするか、という論議ばかりが行われています。損得の問題じゃない、人類全体の危機ですよ、人類の叡智を結集してこの危機を乗り越えようじゃありませんか、という展開にはならないようです。

 まあ、限られた資源を独占しようと世界各地で殺し合い、奪い合いをしてきたのが人類です。また、その軍事力や経済力にものを言わせて資源の独占を画策し我が物にしてきたのが大国です。それが国家戦略というものなら、人類全体の地球戦略というものは誰が行うのでしょう。

 ことしもボゴールの山麓に犬山市からのイヌワシは飛来したでしょうか。

「渡り」が氷河時代と間氷期という気候変動を生き抜いた鳥類の生存戦略なら、人類はどんな生存戦略を練るのでしょう。そのときには「ノアの箱舟」のように選ばれたものだけが生き残るという戦略はとって欲しくないものです。選択権を行使するのはきっと、軍事力と経済力にモノを言わせて神の名を偽る一部の人たちであろうことは、容易に想像がつきます。

そして、私が箱舟の乗員に選ばれないことも確実です。

(MK)

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