男と女の悲しいお話し「夢の果て」  by Tamami

 

 

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「私はお母さんの為に一生懸命働くわ。結婚なんて、まだ考えていないわよ。」と言っていたティダー(22歳)が、最近、落ち着きがない。父親を早く亡くした彼女は、少しでも母親に楽をさせたいと、大学卒業課程にある現在、多くの時間をこのタイ語学校で教師として過ごしている。そんなティダーの授業を熱いまなざしで見守るように受けている生徒がいる。先月入学したニック(26歳)。ベトナム人である父親は外交官であり、タイ人である母親はタイの資産家の出身。ベトナムで生まれたが、ベトナム戦争の頃、フランスへ留学。現在、両親が暮らすタイに帰国したものの、タイ語が全くできない為、このタイ語学校に入学した。。

ニックからティダーにかけた恋のモーションは、授業の後、駐車場でティダーを待ち、家まで送る事。途中でいっしょに食事をするのが、このおぼっちゃまの唯一の自由時間である。パリで育ったスマートにニックとの、甘ったるい会話としぐさに「彼氏いない暦22年」のティダーは、たちまちにおぼれていった。しかし、彼女の中のもう一人の彼女が、心のブレーキを踏み、2人と関係は「友達」の域を越えないものだった。

そんなある日、ニックが「ホームパーティーをひらくから」と、クラスメートや先生達を自宅に招待した。ティダーも初めて行く彼の家は、ガレージに高級車が5台程並び、広々とした庭のむこうをゆったりとクジャクが歩いて行き、そして一歩中に入ると、お手伝いさんが3名、大理石の床にひざまずく・・・、そんな家だった。一見してクン・イン(タイの上流階級の女性)とわかる女性に、ニックは、まずティダーの手をひいて会わせ、

「お母さん、いつもお世話になっているティダー先生です。」と紹介した。・・・・

その後、ティダーには 周囲の笑いさざめきも耳に入らなかった。背伸びして、精一杯上品に振る舞おうとしている彼女自身にすら気がつかず、時折、ニックの優しいまなざしに気がついては、「シンデレラ。

ニックみたいな人に愛された私はシンデレラだわ。・・・私の人生って、どうなってしまうのかしら。」と、ひたすら、身に余る幸せをかみしめていた。

その日から、ティダーの帰宅時間が遅くなった。そして数週間語の週末、プーケットのリゾートホテルで、ティダーはニックと初めて、2人きりの朝を迎えた。

「ティダー先生、今日はキレイねぇ。」「ティダー先生、かわいくなっちゃたじゃん。」

そんな生徒達のひやかす声に、頬を赤らめて、急ぎ足で教室へ向かうティダーの姿は、たったの2週間で消えてしまった。・・・・・・・ニックが友人に語ったところによると「女って、落とすまでが楽しいんだよね。ティダーと真面目につきあう気になんて初めからないよ。

だって僕のパパやママが許すわけないでしょう。僕の誘いに彼女がのってきただけで、テンポラリーに恋を楽しんだだけの事。お互いに楽しかったんだから、それでいいじゃないか。」

フランスでは有色人種と差別され、あまりモテなかったニック。タイに帰国したら、周囲の女性からチヤホヤされ、遊びで何人かの女性とつきあいながらも、親の決めた相手との結婚しか考えていなかったニック。・・・しかし、ティダーの思い描いた夢は大きすぎて、彼女の心の傷は深すぎた。

1年後、ティダーは、線の細い身体をさらにやせ細らせ、落ち窪んだ頬に、厚化粧をし、「今日は誰とデートしようかな。」と職員室で冗談をとばしてみせたりしている。

もちろん、その後、彼氏などいない。彼女には、もう誰も信じられない。・・・いつの頃からか、医師から言われている・・・「精神分裂症になる危険がある。」と。

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