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「南タイ広域連続襲撃事件」 2004年5月 タイは仏教国ですが、およそ200万人のイスラム教徒がいます。 特にマレーシアと国境を接する南部タイ4県では、人口の70%がマレー系モスリムです。18世紀末にタイ王朝に服属したイスラム教のパタニー王国の末裔たちです。 4月28日午前5時30分頃、タイ南部パタニー、ヤラ、ソンクラーの3県で警察軍と武装ゲリラとの間で銃撃戦が発生し、一日で107人もの死者が出ました。犠牲者数の多さから日本でも報道されましたが、イスラム分離独立グループの犯行か?と疑問符付きで報道され、南タイで何が起こっているのか、その背景がよく判らなかったと思います。 一連の南タイ連続爆破、襲撃、放火事件にはクエッション・マークを付けざるを得ない理由があります。イスラム分離独立ゲリラというのは実態がない虚像だからです。もちろん、かつてのパタニー王国分離独立の気運といったものは南タイに残っていますが、それを実行にうつせる組織は1980年代までにタイ軍によってほぼ解体されています。20ちかくの学校や公共施設を同時に放火し、軍の武器庫にトラックで乗りつけて銃撃戦もおこさずに警備兵4名を殺害して100丁のM-16ライフル銃を略奪する(1月4日)といった芸当を起こせる武装ゲリラが現存するのは寝耳に水のような話です。
こういう事件が起きるといつも名前を取りざたされるPULO(パタニー統一解放組織)ですが、実動部隊はわずか100名前後です。もうひとつの武装グループBarisanとPULOが組んで結成したとされる強硬派Bersatu(統一)も名前だけが一人歩きしている感じで、組織は具体的に機能していません。これらの組織は一連の南タイの事件に対して犯行声明を出していませんし、とても上記のような事件を連続して起こす組織力があると思えません。それでは、誰が? 銃撃戦で死んだり、逮捕された者から、事件を起こした組織がすぐにでも割り出せそうなものですが、政府や軍、警察の発表は不得要領です。そして、次々と軍や警察の高官が更迭(あるいは粛清)されています。 外国メディアに対してタクシン首相は、南部情勢について誤った風評や噂をもとに「真実をこえた報道」をしないようにというお触れを出しました。そんなお触れを出されると、逆に勘ぐって見たくなります。このGPAニュースが発禁になることは、よもや無いと思いますが、これは「報道」ではなく「勘ぐり」であると始めに言っておきます。 どんな「風評」や「噂」が流れているのか、簡単に整理します。 @アル・カイーダなどの国際武装グループが事件の背後にいる− A南部の武器密輸・麻薬売買の権益を巡る軍部や地元マフィアの利権抗争− B愛国党タクシン政権に対する南タイを票田にする民主党系軍閥の挑発− @については、イラク戦争との関連で外国メディアがもっとも取り扱いたいことなので、かなり誇張されて報道されている気がします。パキスタンの神学校で学んだことのある者がいたとか、インドネシアのJIと交流のある者がいたとか、何とかして国際テロ組織と関連付けようというメディアの意図が見え見えです。タイ仏教徒がスリランカやビルマの仏教徒と交流を結ぶのと同じように、タイ・モスリムも他国のイスラム協会と交流を結び、メッカ巡礼を至福のこととして憧れるのは普通のことです。そうしたことをあげつらってアル・カイーダと結びつけるというのは強引過ぎます。確かに、タイ・モスリムはタイ市民運動家らとともに、アフガン空爆やイラク侵略戦争に対して反米抗議デモを行っていますが、それと学校焼き討ち事件などとはまったく別ものです。 アル・カイーダなどの国際組織と結びつければ世界が注目し、ニュースの扱いが大きくなるという取材者や編集デスクの打算が、事実を曲げて伝えています。 Aの風評については頷けるところがあります。 1月4日に軍の倉庫から略奪されたM-16ライフル銃は、インドネシアで戦闘中のアチェ自由運動(GAM)の手に渡ったことが確認されています。誰が、どういう経路で、武器を密輸するのかと考えると、軍や警察と密接な関係のあるマフィア(あるいは軍や警察そのもの)が介在しない限り無理だという結論に落ち着きます。また、武器密輸のルートは麻薬ルートにも重複します。こうした闇の武器市場、麻薬市場の利権を握っていた隠然とした勢力が、タクシンの麻薬撲滅戦争やCEO型地方行政(県知事を最高責任者として中央集権化を図る)で再編を迫られ、従来の権益を守るための反撃示威行動に出たのではないかということです。軍や警察の高官、政治家が次々と更迭されているのは、隠然とした「闇の勢力」に関与(あるいは黙認)していたからではないでしょうか。 3年前の2001年3月に、搭乗前に爆発したために犠牲者は出ませんでしたが、タクシン首相暗殺を企図したと思われるタイ航空機爆発事件がありました。そして、すぐ後に連続してハチャイ、ヤラなど南タイで爆破事件が起こりました。このときもイスラム分離独立グループの犯行か?と騒がれ、現地に行って確認したのですが、そんなグループの存在は虚像であり、「闇の勢力」がタクシン政権への示威活動をしているのではないかと考えました。 Bは昨年末の愛国党大会でタクシン首相が「今後20年間、民主党政権はありえない」と豪語したことに対して、新年早々に南タイを票田に持つ民主党系の軍関係者が挑発行動に出たのではないかという噂です。愛国党にとって都合のよい説明ですし、この機会に南タイから民主党の政治家や軍関係者を一掃するという強硬手段をとる可能性もあります。政敵や反体制派にテロリストの烙印を押して軍事力で殲滅するという手段は、世界の為政者間で流行しています。 さて、4月28日の銃撃戦以降、南タイ情勢の雲行きが大きく変わりました。
また、モスクに逃げ込んで立てこもった襲撃犯グループに政府軍が強硬攻撃をして一般人を巻き添えにしたことで、住民感情が激変しました。それまでの事件を政争や権益抗争であると冷ややかに見ていたタイ・モスリムたちが、政府や軍に対して怒りの声をあげ始めたのです。政府は住民の反感をなだめるために、命令を無視して独断で強硬攻撃した現場指揮官を即座に更迭しました。またタクシン首相自ら事件のあったモスクに訪問し、修復の専門家やイスラム諸国外交官を呼んで、住民の説得に躍起になっています。 タクシン首相は何度も誰が犯人か判っていると発言していますが、具体的にその名前を出しません。いや、出せないのでしょう。それくらいの大物が、事件の黒幕に存在すると勘ぐっています。 「南タイ広域連続襲撃事件」の背景を書こうとして、余計に意味不明なことを書いています。単純に言えるのは、こうしたことがタイ全土に飛び火して欲しくないな、ということです。 (MK |
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