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スポーツ特集:パラドンはボルグになれるか?
タイが世界に誇るスポーツといえばまずボクシング。日本人女性と結婚して話題をまいたカオサイ・ギャラクシーや五輪金メダリストのソムラック・カムシンの名が上がる。ややマイナーなところではスヌーカー。本場のイギリスでも絶大な人気を誇るジェームス・ワタナーを輩出したことで有名だ(最近はやや不調)。 新たにテニスが加わることになった。パラドン・シーチャパン(23)の登場である。東京の試合で世界ランク1位のレイトン・ヒューイット(豪)を下したのですでに日本人の間でもお馴染みになっていることだろう。パラドンの今年初めの世界ランキングは126位だったが、今年のツアー終了時には実に16位まで急浮上。1980年にインドのウィジャイ・アムリトラードが到達したアジア人としての最高順位に並んだ。パラドンの現在の調子と脂の乗った年齢からいけば、来年にはアジア人初のベスト10入りも可能だといわれている。 しかし、パラドンの目指す場所はさらにその上。アジア系として世界2位を極めたあの天才プレーヤー、マイケル・チャン(米国)に並ぶことだ。チャンの小さな体が縦横無尽にコートを走りまわり、体の大きな西欧人を手玉にとっていく姿には世界中のアジア人が拍手喝采を贈ったが、パラドン自身もチャンの熱烈なファンであったという。なによりパラドンにはチャンになかった体格とパワーがある。チャンに並ぶだけでなく、チャンが成し得なかった世界1位も決して夢ではない。 パラドンが今年、テニスプレイヤーの聖地ウインブルドンでアガシにストレート勝ちしたとき、世界中のスポーツ記者とファンは“フルーク(まぐれ)!”と叫んだ。しかし、彼はその後、マルセロ・リオス(チリ)やヒューイットなどの強豪をことごとく撃破し、いまはだれもがその時の発言を撤回、パラドンは今年の男子テニス界でもっともホットなスタープレーヤーとなった。 パラドンの人気をさらに上昇させたのがそのキャラクターだ。緊迫した場面で必ずスーパーショットをみせる精神面の強さ、試合中にこぼれるエキゾチックで不敵な笑み、試合後に会場の四隅にワイ(合掌)を欠かさぬ礼儀正しさ。パリス・マスターズのセミファイナルでパラドンがヒューイットに惜敗した時、会場にはテレビを通してでもわかるほどの大きなため息がもれた。だれもがもっとパラドンのプレーを見ていたかったことの証である。プロのスポーツ選手としてこれ以上の栄誉はほかにあるまい。 ところで、パラドンをここまで育て上げてきたのは父のチャナチャイ氏である。周りにはパラドンがさらに世界の上位を狙うため一流のコーチを雇うべきとの声も出ているのだが、彼は「(自分のことを)もっともよく理解してくれている人をなぜ代えねばならない」とまったく意に介していない。また、彼は勝利を確信した後は必ず赤いシャツに着替え る。クールなように見えて意外にゲンをかつぐのが好きなようだ。やはりタイ人。こんな人間的なところも彼の人気の秘密かもしれない。 さて、パラドンの登場によりタイは世界ですっかり名をあげた。女子テニスでもタマリンというスターがパラドンに負けじと奮闘しているが、はたしてタイは今後、アジア初の“テニス大国”としての道を歩み始めることができるのか? 北欧の小国スウェーデンが、ビヨン・ボルグという天才の出現を契機に“男子テニス大国”への脱皮に成功したのは有名な話だ。国レベルでもテニスの普及と選手強化を進め、その後、ヤリードやビランデルなどのトッププレーヤーを育て上げた。しかし、ボルグに並ぶスターに恵まれなかった女子テニス界は、どんなに強化策をうっても世界的な選手が出てくることはなかった。スポーツにおいて、子供の夢の対象となるスーパースターの存在がいかに重要なファクターであるかがわかる。パラドンの成功もチャンへの強い憧れが原動力になっていた。テニスはタイ人にとって非常にマイナーなスポーツだが、幸運にも世界屈指のトップスターにめぐまれた。パラドンの活躍がこれからしばらく続き、国をあげてテニスの普及に取り組めば、タイがアジアのテニス大国に生まれ変わることは決して不可能ではない。パラドンに憧れたテニスのスター選手が他のアジア諸国から出てくる前に、タイ政府は空き地という空き地をテニスコートに改造すべきだろう。 |
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