M.K
VOL.30
TOPへ
イスラムと酒そして麻薬

 4月から5月にかけて、私はインド洋上のモルディブ共和国に滞在していました。船上から海底まで見通せる透きとおった水と群れをなす魚影、月並みにエメラルドとかコバルトとか形容できないくらいに太陽光線の照射具合によって刻一刻と色合いを変える海面のブルー、サンゴでできた白砂とのコントラストはサングラスを通しても目映いばかり、…。もしもバカンスで訪れていたなら、思う存分にリラックスできたのでしょうが、私の滞在地はリゾートではなく、住民島であり首都であるマレ島です。千四百の島々からなるモルディブでは、住民島とリゾート島は厳格に区別されています。住民島では国教であるイスラムの戒律に従い、アルコール類の飲用が禁じられています。35年前から設けられ現在30余りあるリゾート島では、外国人ツーリストに迎合して、アルコール類を飲むことが許可されています。住民島では外国人であっても、上半身裸の姿で歩いていたり、アルコール類を飲んだりすると逮捕・拘留されてしまいます。モスリムの戒律違反で刑務所に送られた経験のある人が国民の18%もいると言うのですから、外国人であるからとタカをくくって酒を飲む度胸は私にはありません。酒を飲むためには、ドーニーと呼ばれる船に乗って近くのリゾートに行くしかありません。阻止マレの魚市場に行くと体長が一メートルを超えて数十キロもあるインド洋マグロが日本円で1000円くらいで買えます。マグロ丸々一匹を仕入れて、顔見知りになったレストランでさばいてもらい、土地の人は見向きもしないトロの部分だけを刺身で食べるのです。我々だけでは食べきれない赤身の部分は、レストランのスタッフへのお礼です。そういうことで、マレ島滞在中の唯一の楽しみは、マグロのトロをゲップが出るくらい目一杯食べることくらいでした。しかし、酒飲みの私にとって、晩酌のないトロは、クリープのないコーヒーのようなモノでした。

 アフガニスタン空爆で緊張するイスラム教国パキスタンのイスラマバードへ視察に訪れた日本の議員たちが、大量のアルコールを持ち込み、パーティを行って大ヒンシュクをかったことが週刊誌にのっています。しかし、イスラマバードには何件かアルコール類が飲めるレストランがありますし、高級ホテルではアルコールが飲めます。タイ大使館で閉館時間なのに出入りをする人がいるので問うたところ、大使館員がアルバイトでウイスキーを売っているのだと聞きつけました。

 イスラム教国ブルネイもアルコールを法律で禁じていますが、某中華料理屋に行くとポットに入ったビールをティーカップに注いで飲ませてくれます。また、タクシー・ドライバーに乞うと、住宅地にある一軒屋のショットバーに連れて行ってくれます。そこには、私と同じくアルコールが無いと口さびしい外国人たちが集っていました。

 シリア砂漠をラクダに乗って旅したときには、ベドウィンたちがアラックと呼ばれる蒸留酒を、これは酒ではない“薬”であると言って飲ませてくれました。もちろん彼らもイスラム教徒です。

 需要あれば供給あり。 

 モルディブの“住民島”と“リゾート島”。観光客が落とす外貨は欲しいが、精神的支柱とするモスリムの社会規範を壊したくないモルディブ政府の苦肉の策です。

イスラム教徒でない私はアルコールに関しては罪悪感がなくて、このようにイスラム教国でのアルコール逍遥のことを気楽に書いていますが、これが麻薬に関しての話だったらどうなのでしょうか。

黄金の三日月地帯アフガニスタンのケシ栽培は、政体が代えられた後も依然として続いています。かの地ではアルコールよりも麻薬に関しての罪悪感の方が希薄な気がします。

そして、黄金の三角地帯。タイ、ビルマ、ラオス、雲南、…。

毎度の如く、今年5月にタイ、ビルマ国境で麻薬をめぐる軍部の戦闘があり、メーサイ・タチレク国境交易所が閉鎖される騒ぎが起きました。麻薬生産と流通の覇権争いを続けるワ族とシャン族に、ビルマとタイの軍部が後押しをして四つ巴の武力抗争が続いています。

 昨年7月、ワ族の麻薬生産地などへ取材をしました。

 2005年までにドラッグ・フリー・ゾーンにするというワ族軍とビルマ政府の声明に呼応して国連麻薬統制計画(UNDCP)が多額の援助金を投入している地域の学校も訪問しました。その学校の若い女性教師へのインタビューが耳に強く残っています。

「ケシは私たちの薬草です。それをヘロインに精製して需要を拡大しているのは外国人の勝手です。麻薬問題は消費者側の問題です。供給して悪者にされるのは割に合いません。村人たちもケシが売れるのなら栽培を続けると思います」

2005年ドラッグ・フリー・ゾーン声明は、それまではケシを栽培しても文句を言うな、という声明に他ならないのです。また、2005年までにケシの需要がなくなる世の中になれば栽培を止める、とも解釈できます。今年4月にCNNのトム・ミンティア氏が、生アヘンの集散地チェントンから麻薬レポートをしていましたが、アヘン生産量が昨年に較べて減っている兆候はありませんでした。

ケシの需要が少なくなる可能性はあります。それは麻薬の流行が、ケシを原料とするアヘンやヘロインから、化学物質のメタアンフェタミンを主原料とするヤーバーに移行しているからです。

ヤーバーは原料さえあれば簡単に作れるので、気候や土地などに左右されるケシ栽培よりも効率が良く、タイやマレーシアの離島で新興マフィアが生産を始めているという情報も入ってきています。

麻薬の取材を進めると、“住民島”と“リゾート島”の船の行き来でブツブツいうくらいの私のアルコール依存度がカワイク思えてきます。

              

VOL.30
TOPへ