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(M.K)
海外での取材中にスタッフが病気に罹ったり、ケガをすれば大変です。そして、それは往々にして起こることです。
みなさんの参考になるかどうか、タイの医療事情についてのヨモヤマ話です。
あなどるなかれ!タイの病院
総じて、日本で紹介される東南アジアの医療事情は、劣悪とされるほうが多いようです。人のアラを探すのは簡単で、テレビ画面上では人々が医療に窮乏を訴えている様子が伝えられています。医療環境が悪いと紹介したほうが、より同情が集まるからでしょう。しかし、そこには脚色があります。正しくいうと、日本ではどこの病院でも平均的な質の治療を受けられるのに較べ、タイではピンからキリまであるということです。簡易ベッドに聴診器ひとつぶら下げただけの医師がいる野戦キャンプのような医院がまかり通っているのと同時に、五つ星ホテルをそのまま病院にしたようなところが存在します。この五つ星クラスの病院の数がひとつやふたつではなく、しかも日本人の経済感覚からすると驚くほど安く治療が受けられるのです。
こうした病院では、欧米や日本で医学を修めた優秀な医師陣が首を揃えて患者を待っています。ある病院の玄関ロビーでは「ウェルカム!」という大きな文字とベルボーイのようなユニフォームを着た接客係が、宿泊客もとへ入院患者を案内している光景を見ることができます。館内に、スイミングプールやカラオケクラブ、高級フランスレストランを揃えているところもあります。病室はスィートルームばりの広い個室で、各部屋にバス、トイレ、直通電話、衛星テレビなどが完備しています。ルームサービスもOKで、日本食などの出前メニューが電話機の横に置かれています。
海外通の日本人のなかには、わざわざタイで入院手術を受ける人がいるほどです。日本の保険も適用されます。日本の友人から観光半分でタイの病院で痔の手術を受けたいと打診があり、五つ星病院の雄・バムルンラート病院(http://bumrungrad.com)へメールで問い合わせると、翌日に懇切丁寧な返事が来たのには感激しました。ホームページには“World Class Medicine. World Class Service.”と大書きしてあります。
医療フロンティアと過誤との紙一重
ときどき日本で医療の不祥事が話題になっています。患者取り違え事件、手術でガーゼを体内に残したまま縫合するなど、ケアレスミスといえども生死にかかわるミスです。タイでもこの手のミスは起こっているはずです。しかし、ニュースになりません。患者側が裁判所やマスコミに訴えない限り、こうしたミスは表沙汰にはならないからです。タイでは、病院側も患者側も「マイペンライ(Donユt
mind. 気にしない)」で済ませてきたような気がします。
ところが患者側の意識が向上したのか、先頃ある訴訟がありました。口腔内に小さなデキモノができただけなのに、口をいじくり回された挙句に、歯をすべて摘出されてしまったというのです。誤診、医療過誤ではないのか、という訴えです。
以前、あまりにも虫歯が痛むので小さな町の歯医者に飛び込んで「何とかしてくれ」と治療を受けたことがあります。そのときに抜かなくてもよい歯を取られてしまい、麻酔のうちすぎで下顎部が麻痺したままで話すこともウガイすることもできない状態になったことがあります。歯医者は「ちょっと麻酔をうちすぎたので、感覚が戻るのに1〜2日かかるかもしれない。戻らなかったら、もう一度、来診してください。マイペンライ」と悪びれずに言ったものです。私は泣くに泣けない気持ちで、その一日をホッペをつねりながら、痛みが戻るのを念じて過ごしました。幸いにもすべての歯を取られるようなことになりませんでしたが、裁判所に訴えでた患者のようなケースもあるだろうなと容易に想像できます。
タイには世界最先端の治療機械や医薬品が揃っています。医者にしてみれば、そうしたものを使いたくなるのは当然です。使わなくてもよいのに使ってしまうことで、医療過誤といえる状況になるのです。いくら麻酔薬が安いとはいえ、人体の許容量をこえて使われてはたまりません。
タイで医者と付き合うときには、患者側もある程度の医学知識を持って、疑問を感じたら問いただすことが必要です。まあタイだけでなくて、日本でもそうですが…。
しかし、逆の効果もあります。タイには世界的な外科の権威が多くいるのです。ほかの国では試せないような手術も批難されずに行うことができたために、豊富な臨床経験に裏付けされた優れた医師が育ったのです。レーザー治療などは世界の最先端であると評価されています。最先端になるまでにどれくらいの患者が実験台になってきたのか、下顎を撫ぜながら想いを馳せるときがあります。今では、友人が試そうとした痔の手術はもとより、整形手術、移植手術、性転換手術など、何の問題もなく行われています。
簡単な?保険金詐欺
マレーシアのペナン島で、こんな事件が数例起こっています。地元の医師と海外旅行障害保険をかけた日本の旅行者が組んで、治療もしていないのにニセの診療請求書を保険会社に送りつけた事件です。この悪徳医師は摘発、検挙されたという報道がありましたが、検挙された医師以外にも治療費を保険会社に上乗せ請求している病院は多いようです。
バンコクの某五つ星病院の受付で保険の有無を聞かれて無いと答えたときに、受付嬢がガッカリした表情をしたのを見取ったことがあります。すかさず、上乗せ請求をしているんじゃないの?と冗談を言ったら、受付嬢はニッコリと微笑んで否定も肯定もしませんでした。
外国のビザを申請するときやタイでの滞在手続きなどで、健康診断書の提出を求められることがあります。病院に行くと、身長と体重の計測と簡単な問診(健康ですか?ハイ健康です)だけで健康診断書を発行してくれます。こんなイージーなことで良いのだろうかと疑念を抱きつつも、シッカリ検査して欲しいなどとは言いません。検査すればいろんな病気が発見されそうで、当該官庁の健康診断書審査で難癖をつけられるからです。このイージーさを利用して、犯罪をもくろむ輩も登場してきます。保険金詐欺です。
タイではありませんが、フィリピンのマニラで起こった保険金詐欺事件を数年前に取材したことがあります。本人は死んでいないのだが、警察や病院と結託し、適当な遺体を見つけて死亡診断書を作り、高額な保険金を受け取ったという事件です。犯人の森氏は現在獄中ですが、バレずにシャバで豪勢な生活を送っている者も多くいると豪語しています。
混沌アジアならではのエピソードです。
貧富の差がモロに反映する医療
最初に東南アジアの医療環境は一概に劣悪であると言えないと書きましたが、目を覆うばかりの医療環境がもちろんあります。患者の貧富の差が受けられる治療にモロに反映します。「人情のアジア」と平行して「拝金主義のアジア」があることを否定できません。
地獄の沙汰も金次第、刑務所の沙汰も金次第、病院の沙汰も金次第、…。
チェンマイ大学のターチャイ先生は、貧者の地雷犠牲者が安価に義足を得られるようにと、ヤクルトの廃品ボトルを利用した軽くて丈夫な義足を開発しました。例年、国境地帯にキャラバンを組んで、義足を患者たちに無料で作ってあげています。また一方で、故シーナカリン王母の骨折時の主治医を勤めるほどの整形外科の権威です。このターチャイ先生の活動に賛同したタイ王室は、ヤクルトの容器を溶かすときに使用するシンナーが先生たちの体に害を与えるからと、欧米から輸入した義足素材の無償提供を申し出ました。患者の貧富を問わない先生の活動が評価されたのです。
他にも献身的に活動する医療関係者も多くいます。こと医療に関しては、貧富の差なく機会均等に治療を受けられるように是正されつつあります。保険大臣になったタイ愛国党のスダラット女史は、社会的弱者の医療費免除政策を発表しました。
あとは社会的弱者が、エイズ新薬やガン新薬、遺伝子治療など新しい技術や処方の実験台にならないように祈っています。
久米島の翁
「私は、ビルマ人であることが恥ずかしい」、と私の隣に座った青年が言った。プノンペン空港で、イミグレの女性と冗談を言い合っている私に興味をもったのか、一人の若者が新聞を見せてくれと隣に座った。
そしてAPの記者の書いた、「かつての誇り高きラングーンの大学が、今やアジアで最も活気の無い牢獄のような場所になってしまった。」という記事を見て「これは本当だ、私のように外国に出るビルマの人間は、毎日恥ずかしい思いをしている。」と話し掛けてきたのだった。
かれはタイの船会社に勤めるビルマ人技師で、パスポートは無くタイの船員手帳で旅をしているのだった。
そして日本は立派な国で、どこに行っても尊敬されるからいい、ビルマは最低で、昔はビルマより下だったタイからも見下されていると嘆く。
というかれは、タイ女性と結婚することで初めて船員手帳を取ることが出来た。もちろんその前は、職の無いビルマからタイに密入国したのだった。
かれの場合は、シッピング・エンジニアーという肩書きを持っていて、タイ人の不得手な英語が出来たことが身を助けた。
しかし普通のビルマ人労働者は、一日五十バーツ(約百二十円)でタイの危険な漁業や、きつい農業の下働きをして生き延びている。それでも、自国ビルマで働くことの何倍もの現金収入になるのである。
「あなたはビルマ人として恥ずかしい、日本は尊敬されているからいいとおっしゃるが、私は日本人として、日本の現状が恥ずかしい。」
「だいたいビルマを今の国のようにしたのは、日本の腐敗した政府援助なのだから、あなたの国の現状を私も恥ずかしく思う。」と挑戦してみた。残念ながら、そこでかれの飛行機が出発となり、会話は途絶えた。
タイに戻ってみると、外交的にビルマに積極的に関わると思われる、タクシン新首相が乗ろうとした飛行機が爆破され、危うく死にそこなっっていた。
かれは成功したビジネスマンだが、裏にはアメリカの情報筋の助力もあるといわれ、とくに前ブッシュ米大統領と近く、ドラッグビジネスとの関連も指摘されている。
ヨーロッパ諸国やアメリカは、ビルマに対して積極的な経済封鎖政策を取らず、日本の影響下にあるアセアン諸国の、ビルマ軍事政権維持方針に合わせていた節がある。
しかし今年は、共和党のブッシュ大統領とタクシン首相のコンビが、ビルマに対して何かと積極的に関わると予想される。先行きの暗いアメリカ経済を立て直せるのは、戦争だけだというのは明白である。
そうした情勢に対して、先月ビルマ軍がメーサイ地区を越境攻撃したのは、タイの出方を探る目的だったとも言われている。
その後双方とも直接の衝突は避けているが、諜報活動、増援が続き、一触即発の状態が続いている。私の知り合いのタイ兵も、ビルマ国境に送られた。
一方ビルマ軍のほうも、内部分裂の危機があるといわれている。あまり同意してくれる人は少ないと思われるが、ビルマの権力は、いまだにネ・ウィンに握られていると私は思っている。
そして今起こっていることは、絶対権力と化したネ・ウィン軍事政権が、腐敗し、崩壊していく過程であろうと思われる。
惰性で強行路線にしがみつく軍中央部と、妥協をしつつ生き延びようとするネ・ウィンに近いキン・ニョンとの確執である。
ティン・ウ准将のグループがヘリコプター墜落で死んだのも、きっとこの内部分裂の結果だと思われる。そして、こういう問題を解決する方法はただひとつ、戦争しかないのである。
以前にも書いたことがあるが、ビルマはタイを未だに、やっつけたことのあるアユタヤと呼んで、蔑んでいる。軍人の実力も、長い間少数民族と戦ってきたので、ビルマのほうがずっと上である。
ビルマ軍政が怖いのは、国際世論だけである。しかし、これも無視して生き延びてきた自信を持っている。ナチや帝国日本が、国際社会を無視して戦争に突き進んでいった過程を見てみれば良く分かることだ。
もうひとつの問題は麻薬である。今回戦争に巻き込まれた国境の町メーサイは、また麻薬の通り道でもある。今までの主流だったヘロインが、安く作れる覚せい剤にとって代わられ、その市場を荒らされている。
タイ社会の覚せい剤汚染は、日本のそれを上回る大きな社会問題になっている。タイは麻薬生産国から、一大消費国に変貌しつつある。
ビルマ国境内で争っているシャン族と、元ビルマ赤旗共産党だったワ族とビルマ政府軍の合同部隊の争いも、麻薬をめぐってのものだ。
タイ、ビルマ両国とも麻薬生産で世界一の、ゴールデン・トライアングルの一部を成し、闇社会は、いや表社会も麻薬で潤っている。
その既成の秩序が覚せい剤、ヤー・バー(狂い薬)の出現によって狂い始めているのだ。そして、それを解決するのも戦争しかない。
タクシンが首相になったとき、普段は政治にあまり興味を示さない私の愚妻が、これでタイもいよいよ、カンボジアみたいな国になると言った。難民になる前にどこかに出る準備をしなくてはという。
私はもちろん冗談だと思った。しかしその後の出来事を見ていると、あながち有り得ないことではないと思うようになってきたから不思議だ。
確かにタクシンは、圧倒的な支持を受けて当選した。
しかし悪化する経済のなか、結局うまく政策を実行することが出来ず、反対する国民の弾圧に回る。
その結果、金持ちとしての本領を発揮し、国を分断する血で血を洗うような状態にタイの国を落しこめていくというのだ。麻薬問題の本質も露呈すると。
私はそこまで悲観的ではないが、最近の、タイ農民の政治闘争の高まりや、民主化運動の進展振りは目を見張るものがある。もしタクシンが反人民的行動を取るならば、そういう騒乱状態になる可能性はあるといえる。
最初のカンボジア難民を、国境の崖から突き落とし地雷原に追いやったタイ政府。国境のカンボジア難民村に大砲を浴びせたタイ軍。ベトナムのボート・ピープルがタイの領海に着たとき、男を殺し、おんなを犯して盗みを働いたタイの漁民たち。
まず国内矛盾を外国に向けようとするビルマ軍政と、タイが、ブッシュの後押しを受けて戦争状態になる。その国内騒乱状態の虚をついて、ホー・チミンの意志を継ぐベトナム(インドシナ共産党)の戦車部隊が、タイを襲う。超能力でタイ人の信仰を集める、老師ルンポー・クーンもそう警告していると言うのだ。
(了)
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