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■ 現地採用日本人の生活
企業から派遣される駐在ではなく、自身でタイに来て現地採用で働く20代の日本人たちの、おそらくだいたいの収入は3万バーツ前後ではないだろうか。
しかし、この3万バーツという額は、かなり微妙な額である。
一般のタイ人に、月収3万バーツと言えば、少なくとも20代としてはかなり多いと思われるだろう。実際、タイ人の大学卒初任給は1万バーツ程度だ。しかし彼らは、携帯電話や自家用車を持っている。月収3万バーツの日本人の場合、携帯電話は不可能ではないが、自家用車など夢の夢だろう。
タイでは、携帯電話は最低でも1万バーツ、自家用車も安くて40万バーツはする。
ぼくはタイに住んで6年になるが、タイ人の財布というものが未だにわからない。アルバイトなどすることの少ない(したところでアルバイトでの収入はたかがしれている)学生が平気でベンツやボルボに乗っているのは、親(家)が金持ちなんだろうなと想像はつく。しかし、普段財布の中に300バーツも持っていないような人でも「携帯をなくした」と騒いでいたと思ったら、1週間後には新しい携帯電話を手に入れていたりする。どうしてバレないのか不思議だが、「親に内緒で」2週間イギリス旅行に出かけてしまう女子学生もいた。もちろん、彼女に自力で行ける貯金などない。
おそらく、タイ人の財布は、親だけではなくいろんな人の財布とつながっているのだろう。だから、月収1万バーツのはずのタイ人でも、はたから見ているととてもそんなはずはないという生活ぶりになったりする(もちろん、そうではない人もいる)。
日本人の場合は異なる。月3万バーツの収入であれば、まったくその範囲内で支出を抑えなければならない。こう書くと当たり前の話であるように思えるが、先にも書いたとおり、タイでは当たり前ではない。タイ人の場合、どう考えても自分の収入よりも支出が多い暮らしをしている人が多くいる。
月3万バーツでどの程度の生活が出来るだろうか。
現地採用で働く日本人が住むアパートは、だいたい月5000バーツ程度のところが多い。それに水道代や電話代、電気代が加わると、月6000〜7000バーツの支出が最低でもあるだろう。
食費は、毎日屋台で3食とれば1日100バーツで済む。月3000バーツ。
通勤・通学にかかる交通費は、バスを使えばこれも安く押さえられる。1日20バーツとして、月600バーツにしかならない。
こう考えると、1ヶ月の生活費は1万バーツ程度で、2万バーツ余ることになる。
たしかに、これでタイ人だと、少しお金を貯めて携帯電話を買ったり、ローンを組んで自動車を買ったりすることも可能だ。
ところが日本人の場合、最低必要な生活費以上に様々なお金がかかる場合がある。
まず、ワーキングパーミットを持っていない場合(当然その場合不法就労となるのだが、実際問題としてはパーミットを持たずに働いている人も少なくない)、少なくとも3ヶ月毎に一度国外に出なければならない。考え方によっては、3ヶ月に1度海外旅行をしていることになる。
食事も、毎日屋台料理だと、はじめのうちはまだいいが、そのうちに飽きる。それで、友人と会ったりなにかの集まりがあったりすると、日本料理や洋食他のレストランへ行くことが多い。そうした店は、日本よりは安いとはいえ、タイでは高級店だ。
屋台飯の何倍ものお金がかかる。
タバコや酒代も、必要な人には必要だ。タイ人だって煙草を吸う人酒を飲む人は多いが、日本人のようなヘビースモーカーや毎日家で晩酌をして寝る人などはほとんどいない。
遊んで帰りが少し遅くなると、いつ来るかわからないバスではなくタクシーを使う。
生活費以外のそうした出費は、もちろんのこと当人の問題ではある。つまり実際のところ、現地採用の日本人といえども、タイ人の感覚ではかなり贅沢な暮らしをしているのだろう。なぜならタイよりも相当に裕福な日本で生まれ育ったのだから。日本とある程度同じような生活を維持しようと思えば、一般のタイ人よりも支出が増えるのは当然だ。
普段の生活であれば、一般のタイ人と同じ生活でも問題はない。
問題は、たまの遊びなどの出費だ。タイ人であれば、外食するときにちょっとした食堂やファミリーレストランで満足できるかもしれないが、日本人であれば、せっかく外食するならもう少し高級な店、あるいは様々な国の料理を食べたいと思うだろう。洋服を買うにしたって、屋台の100バーツのTシャツばかりというわけにはいかない。仮に自分ではそれで構わないと思っていても、それなりに高級な場所に出入りする機会なども日本人であればいくらでもある。みっともない思いは誰だってしたくない。
ちなみに海外旅行など、ビザ取り以外ではかなり困難だ。日本人がタイ旅行をする感覚で、タイから日本へ遊びになど、とてもではないが行けない。
そして、言葉。タイ語の雑誌やテレビを、日本語と同じ感覚で楽しめるレベルの人は少ないだろう。1人で部屋にいてもすることはなく、しかしタイ語を普通にしゃべる程度では問題ない人が多いから、人に会ってしゃべりたくなる。さらには、日本語での会話が、やはり相当に魅力的となってくる。
たぶん、日本にいるよりも、在タイの日本人は人に会うために外出する機会がよほど多いのではないだろうか。
物質面を除けば、現地採用系の日本人でも、日本で働いてる同世代の日本人よりもある意味では贅沢な暮らしをているとも言えるだろう。バンコクの中心部に近い場所に住み、しばしば外食をし、たまには高級(タイの感覚で)な場所にも顔を出す。タイ人から見れば、六本木あたりで遊んでいる在日外国人のように見えているかもしれない。
タイでは缶コーラが13バーツ。タイでの1バーツの価値が日本での10円だとすると、3万バーツは30万円と言うことになる。この額は、20代としては悪くない額だろう。しかし、日本人はタイでタイ人と同じようには暮らせない。
もちろん、それは人による。貯金もしている人もいるし(特に女性)、2万バーツ以下の収入で暮らしている人も少なくない。現地採用で働く日本人で、3万バーツもあれば充分と答える人は、かなり多いだろう。実際、楽しく暮らせる額ではある。少なくとも数年間はそれでも満足できるかもしれない。
ところが、車が欲しい、海外旅行をしたい、などとなると途端に苦しくなってくる。3万バーツが30万円の価値だとすると、カローラ以下のクラスの乗用車の価格の40〜50万バーツが、400万円以上ということになってしまう。買えなくもないかもしれないが、他の面で相当きりつめないと無理だ。
タイでは昇給の機会は少なく、また、たとえ昇給して3万バーツが5万バーツになったとしても、日本円で15万にも満たない。タイで楽しく暮らす分には問題ないかもしれないが、それはタイ国内で適当に遊んで暮らす範囲内の話だ。
また、日本で少し厳しい生活を強いられるのと、タイでのれとは、おそらく精神的な負担が違う。なぜなら、タイでの生活は先が見えにくいからだ。今頑張れば将来良くなるという考え方は、それは真理でもあるが、タイでは日本ほどには信じられてはいない。
こうした思いを抱いたときが、現地採用で働く日本人の分岐点だろう。
ある者は、これ以上タイで働いていても無駄だと日本へ帰国する。
ある者は、そうした生活でも構わないとタイに居続ける。
ある者は、独立して事業を起こすことを考える。
タイで、若くして独立して事業を起こした日本人、あるいはそれを考えている人が、周囲に何人かいる。今回は字数が尽きてしまったが、機会があればそうした人をピックアップして紹介してみたいと思う。 |